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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)10838号 判決

第一事件原告(選定当事者)、第一〇事件被告(以下原告という。)

高塚敬三

第二事件被告(以下原告という。)

土屋博

第三事件被告(以下原告という。)

今西正二

第四事件被告(以下原告という。)

畑野勇

第五事件被告(以下原告という。)

藤田進

第六事件被告(以下原告という。)

佐藤敬

第七事件被告(以下原告という。)

井上東洋志

第八事件被告(以下原告という。)

富田寿明

第九事件被告(以下原告という。)

浅井茂

第一一事件被告(以下原告という。)

足立三郎

第一二事件被告(以下原告という。)

中島昭夫

第一三事件被告(以下原告という。)

城間徳一

以上一二名訴訟代理人弁護士

高橋典明

第一事件被告、第二ないし第一三事件原告(以下、被告という。)

サンコーポ高槻阿武野管理組合

右代表者理事長

下坂透

右訴訟代理人弁護士

永吉孝夫

主文

一  原告高塚敬三と被告との間において、昭和六〇年五月三一日開催の被告臨時総会においてなされた被告の役員選任決議の無効確認請求にかかる本件訴えは、これを却下する。

二  右原被告間において、昭和六〇年一〇月二九日開催の被告臨時総会においてなされた被告の役員信任決議の無効確認請求は、これを棄却する。

三  原告らは、被告に対し、各原告ごとに別表(一)〈略〉の当該事件欄記載の各金額及びこれに対する昭和六〇年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は原告らの負担とする。

五  この判決は第三、第四項に限り、仮にこれを執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 (イ)昭和六〇年五月三一日開催の被告臨時総会においてなされた被告の役員選任決議、及び(ロ)同年一〇月二九日開催の被告臨時総会においてなされた被告の役員選任決議は、いずれも無効であることを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 請求の趣旨1(イ)の決議無効確認請求部分について

(一) 本案前の答弁

主文第一、第四項と同旨

(二) 本案の答弁

(1) 原告高塚敬三の請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は、右原告の負担とする。

2 同1(ロ)の決議無効確認請求部分について

主文第二、第四項と同旨

(第二ないし第一三事件)

一  請求の趣旨

主文第三ないし第五項と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1 本案前の答弁

(一) 被告の各本件訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2 本案の答弁

(一) 被告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

(第一事件関係)

一  原告高塚の請求原因

1 当事者

原告高塚敬三(以下原告高塚と略す。)選定者らは、いずれも大阪府高槻市塚原四丁目四六番一号所在「サンコーポ高槻阿武野」マンション(以下本件マンションという。)の区分所有者であり、被告は昭和六〇年五月三一日、右マンション集会所で開催された「サンコーポ高槻阿武野管理組合設立総会」(以下、本件五月総会という。)で設立された管理組合である。

なお、本件マンションの区分所有者の構成員は四〇名であり、本件マンションの管理規約である「サンコーポ高槻阿武野」管理規約(以下、本件規約という。)第二五条により「区分所有者の議決権は各戸均等とする。」と定められており、右議決権総数は七〇であり、原告選定者らは各一の議決権を有している。

2 被告の各総会決議

(一) 昭和六〇年五月三一日阿武野マンション集会所において、本件五月総会が開催され、被告の役員として左記の者を選任する決議(以下、本件選任決議という。)がなされた。

理事長    下坂 透

副理事長   青野達也

会計担当理事 岡沢博典

理 事    大陽実業株式会社

同      株式会社万代

同      岸田喜八郎

監 事    山本康夫

同      寺田幸司

(二) 昭和六〇年一〇月二九日、被告臨時総会(以下、本件一〇月総会という。)が開催され、本件選任決議で選出された被告の執行部を信任する旨の決議(以下、本件信任決議という。)がなされた。

3 本件各決議の無効原因

(一) 本件選任決議について

(1) 総会の招集手続違反

本件規約には、区分所有者の集会の招集手続について次の定めがある。

第二二条(集会の招集権者)

「管理者又は議決権の四分の一以上を有する区分所有者は、集会を招集することができる。」

第二三条(集会の招集手続)

「集会を招集する場合には、原則として集会日より五日前に会議の目的事項を示して各区分所有者に通知するものとする。ただし、緊急の場合にはこの日数にかかわりなく招集することができる。」

ところが本件五月総会の招集通知は、総会開催日である昭和六〇年五月三一日の前日の夜ないし当日になされており本件規約第二三条に違反する。また本件五月総会は管理組合の設立を目的とするものであり、同条但書の「緊急の場合」にも該当しない。

さらに、本件五月総会の招集者は、下坂透、西野忠治、青野達也、三宅信子、岸田喜八郎の五名であるが、右五名の議決権数は、岸田喜八郎が七、その余が各一であるから、議決権の合計数は一一である。したがって前記五名の議決権数は、総議決権数七〇の四分の一に満たず、右五名の招集は本件規約第二二条に違反している。

(2) 総会の定足数に関する規約違反

本件規約第二六条一項には、「集会は全議決権の三分の二以上にあたる議決権を有する区分所有者の出席がなければ議事を開き、議決をすることができない」旨規定されている。

右条項によれば、総会の定足数は総数七〇の三分の二以上である四七以上でなければならない。しかし、本件五月総会に出席した区分所有者の議決権総数は四一に過ぎず、定足数に満たない。

(3) かような招集手続に違反し、かつ定足数も満たさず開催されるという重大な瑕疵を有する総会においてなされた本件選任決議は、無効である。

(二) 本件信任決議について

(1) 被告の本件一〇月総会は、直接出席者八名(議決権数一七)、委任状提出による出席者一二名(議決権数二六)をもつて開催されており、出席議決数は合計四三であり、被告総会の定足数四八に満たない。もっとも、右以外に議決権数を有する岸田喜八郎が当日いつたん本件一〇月総会に出席したものの、同人は、議事に加わることなく退席し、議決にも一切関与しておらず、これを出席者として数えることはできない。したがつて、本件一〇月総会は定足数に欠ける。

(2) かような定足数を満たさず開催されるという重大な瑕疵を有する総会においてなされた本件信任決議は無効である。

4 よつて、原告高塚と被告との間で、本件選任決議及び本件信任決議がいずれも無効であることの確認を求める。

二  被告の本案前の主張(本件選任決議について)

団体の内部紛争につき、その議決機関の決議の無効確認を求める訴えは、現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のため適切かつ必要と認められる場合には許容されるが、その議決機関の後の決議が有効になされたことにより前の決議がその後の法律関係に影響を及ぼしていないときは、確認の利益はない。

本件でも、被告は、本件一〇月総会において、本件選任決議により選任された役員を信任する旨の決議をなしたのであり、原告は、本件選任決議の無効確認の利益を喪失したものである。

三  被告の本案前の主張に対する原告高塚の答弁

請求原因3の(二)のとおり

四  請求原因に対する認否

1 請求原因1のうち、被告が昭和六〇年五月三一日設立されたこと、同マンションの区分所有者の構成員が四〇名であること、その議決権総数が七〇であることはいずれも否認し、その余の事実を認める。本件マンション「サンコーポ高槻阿武野」は昭和五〇年三月に竣工され、その当初から管理規約は存在し、原告高塚敬三選定者を含むすべての購入者が右管理規約を承諾して区分所有者となつたもので、被告は本件マンション竣工当初から存在していた。また被告の構成員は四一名、議決権総数は七一である。

2 同2の事実は認める。

3(一) 同3(一)(1)のうち、招集通知のなされた時期が原告高塚の主張どおりであることは否認し、その余の事実は認める。

(二) 同3(一)(2)のうち、本件規約第二六条一項の規定内容が原告高塚の主張どおりであることは認め、その余の事実及び主張は争う。本件五月総会においては、直接の出席者五二、委任状提出による出席者一四、以上合計六六の出席があつた。

(三) 同3(二)の事実及び主張は争う。本件一〇月総会には、原告主張の直接出席者、委任状提出による出席者のほか岸田喜八郎も出席し、本件信任決議に加わつて、同人の有する七の議決権を行使したものである。

五  被告の反論(請求原因3(一)(1)に対して)

仮に本件五月総会において、招集通知の期日、招集者につき何らかの瑕疵があると評価されるとしても、原告選定者を含む全区分所有者に出席の機会が与えられ、圧倒的多数の出席によつて成立した本件五月総会においては、その瑕疵はきわめて軽微なものにすぎず、決議を無効にするものではない。

(第二ないし第一三事件関係)

一  被告の請求原因

1 被告は、建物の区分所有等に関する法律に定める管理組合で、マンション「サンコーポ高槻阿武野」の建物・敷地及び付属施設を管理する権利能力なき社団であり、原告らは、それぞれ、右マンションの各原告の肩書住所番号の部屋を区分所有する者で、いずれも被告の一組合員である。

2 被告と原告らとは、原告らが被告の組合員となつたさい、被告の管理規約によつて、原告らが被告に対し、毎月二五日までに翌月分の別表(二)記載の管理費用及び積立金五〇〇円を支払う旨約定した。

3 被告と原告らとは、前項同様、被告が高槻市に対して立替えて支払つた各原告使用分の水道料金につき、毎月二五日までに支払う旨約定した。

4 ところが原告らは、各原告ごとに別表(二)の当該事件欄記載の管理費、積立金、水道料金を支払わない。

5 よつて、被告は原告らに対し、各原告ごとに当該事件欄記載の別表(二)の各未払金合計額すなわち別表(一)の当該事件欄記載の各金額及び右各金員の支払時期の後である昭和六〇年六月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  原告らの本案前の主張

1 第一事件の原告高塚の請求原因2(一)及び同3(一)のとおり

2 本件役員選任決議が無効である以上、下坂透は原告の理事長ではなく、原告の代表権を有しない。したがつて、被告は、権利能力のない社団であるが、未だ代表者の定めがないことに帰するから、当事者能力を有さず、被告の本件訴えは却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否

すべて認める。

第三  証拠〈省略〉

理由

(第一事件について)

一特定団体の総会決議無効確認のごとき過去の事実ないし法律関係の存否ないし効力の確認を求める訴えは、その後の権利状態の変動が顧慮されていないため現在の紛争解決に資するところがないのが通例ではあるが、現在における個々の権利関係の確認よりもその権利関係の基礎をなす過去の事実ないし法律関係を確認し確定することが紛争の抜本的解決により適切かつ必要である場合には、右のような訴えについても確認の利益を認めることができる。本件においても、第二ないし第一三事件について被告から原告らに対する管理費等支払請求権の存否を確定する前提として、被告代表者理事長下坂透の代表権の存否が争われているのであり、右各事件及び今後生起することがありうる同種の紛争を抜本的に解決するためには、個々の紛争において被告代表者理事長の代表権の存否を個別的に判断し確定するよりも、右代表権を発生させた被告の総会における役員選任ないしこれに類する決議の効力の有無を確定する方がはるかに適切であることは、疑いを容れないところである。

ただ、当該事実ないし法律関係は、あくまでも過去の一時点のものであるから、その後の時間的経過に伴つて新たな事実状態が発生することにより、過去の当該事実ないし法律状態が現在の権利ないし法律関係の確定に対して影響を及ぼさなくなることがある。このような場合には、右過去の当該事実ないし法律関係の確認はもはや紛争解決のために適切かつ必要とはいい難く、その確認の利益は否定されなければならない。本件においても被告の本件選任決議がたとえ無効であつたとしても、その後本件信任決議が行われている以上、被告代表者の地位は右信任決議に基づいて有効に確定されることとなり、本件選任決議の効力いかんはもはや現在における紛争解決に何ら影響力を持たなくなる。したがつて、本件選任決議無効確認の利益は、もつぱら本件信任決議が無効である場合に限り存在するといえるのである。

二そこでまず、第一事件のうち本件信任決議の無効確認請求について判断する。

1  〈証拠〉によると、請求原因1の事実中、被告の構成組合員数が四〇名であること、議決権数が七〇であることが、それぞれ認められ〈る〉。そして、〈証拠〉によると、昭和五〇年三月の本件マンション竣工当時から「サンコーポ高槻阿武野」管理規約が存在し、原告高塚選定者らを含むすべての購入者が、右管理規約の存在及び内容を認識し了承した上で本件マンションの区分所有者となつたことを認めることができる。したがつて被告は昭和五〇年三月以降存在していたものと解するのが相当である。請求原因1のその余の事実は、当事者間に争いがない。

2  同2(二)の事実については当事者間に争いがない。

3  同3(一)(2)のうち本件規約第二六条一項の規定内容が原告高塚の主張どおりであることは、当事者間に争いがない。

4  そこで、同3(二)について検討すると、被告の本件一〇月総会において、直接出席者八名(議決権数一七)及び委任状提出による出席者一二名(議決権数二六)の出席者があつたという限度においては、当事者間に争いがない。

原告は、右出席者以外に議決権数七を有する岸田喜八郎がいたが、本件一〇月総会の各議事決議前に退席したため、同人を出席者と数えることはできず、本件一〇月総会は本件規約第二六条一項の定足数を欠くにいたつた旨主張する。しかし、右主張にそう事実は本件全証拠によつてもこれを認めるに足りない。そして、右争いのない事実と、〈証拠〉を総合すると、本件一〇月総会は、管理規約にしたがつて適法に招集されたところ、岸田喜八郎は、右招集に応じて昭和六〇年一〇月二九日午後八時五分前に阿武野マンション集会所へ赴き、同所において同日午後八時から始まった本件一〇月総会に出席し、同人の有する議決権数七を行使して第一号ないし第四号議案のすべての議決に参加し、いずれも賛成の意思表明をし、同日午後八時四〇分ごろに総会の閉会が宣せられるまで総会に出席し、同集会所にいたこと、本件一〇月総会における総会成立要件である定足数は、議決権数四八であるところ、本件一〇月総会においては、右争いのない出席者の議決権数計四三に岸田の議決権数七を加えた合計五〇の議決権数を有する者の出席があり、右定足数に欠けるところはなかつたことが認められ〈る。〉

5  したがつて本件一〇月総会に定足数欠缺の瑕疵があつたものということはできず、ほかに本件一〇月総会においてなされた本件信任決議の効力を左右する事由についての主張立証はないから、本件信任決議を無効とすることはできない。

三右のとおり本件信任決議によつて被告執行部を信任する旨の意思確認がなされ、本件信任決議の効力を動かすに足るものがない以上、被告執行部役員の地位は本件信任決議にその基礎をおいて有効に確定されることとなるから、本件信任決議前になされた本件選任決議の無効確認の利益は失われるにいたつたというべきである。

(第二ないし第一三事件について)

四1 原告らは、被告の本件五月総会に瑕疵があるため本件選任決議が無効であり、したがつて下坂透が原告代表者たる地位にないことを理由に、被告の原告らに対する請求にかかる訴えが不適法である旨主張する。しかしながら右下坂の被告代表者たる地位が本件選任決議でなく、本件信任決議にその基礎をおくものであることは第一事件関係において説示したとおりであり、原告らの右本案前の抗弁は理由がない。さらに、原告らの右本案前の抗弁に関して本件信任決議の効力が問題となるとしても、本件信任決議を無効とする瑕疵が認められないことは第一事件において説示したとおりであり、下坂の被告代表者たる地位は本件信任決議で確定したものといえるから、その代表権の欠缺を理由とする原告らの本案前の抗弁は、いずれにしても理由がない。

2 被告の請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。

(結論)

五以上のとおりであるから、第一事件のうち原告高塚の本件選任決議無効確認請求にかかる本件訴えは、訴えの利益を欠くものであつて不適法であるから、その余の点について判断するまでもなくこれを却下し、同原告の本件信任決議無効確認請求は、理由がないのでこれを棄却し、第二ないし第一三事件の被告の請求は、いずれも理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岨野悌介 裁判官富田守勝 裁判官西井和徒)

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